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AIの安全対策が、保険でも評価される未来へ――AIアシュアランスを引受判断につなぐ、新しい保険の構想

執筆者の写真: kanna qed
kanna qed
9月23日
読了時間: 5分

AIを安全に運用するために投資した企業が、その取り組みを保険でも適切に評価される。そのような仕組みを、保険会社とともにつくりたい。株式会社GhostDrift数理研究所は、AIの運用に関する検証可能な根拠を、保険の引受判断につなぐ構想に取り組んでいます。目指すのは、特定の技術を導入すれば自動的に保険料が下がる仕組みではありません。どの対策が、どの業務で、どこまで機能していると確認できるのか。その情報を、保険会社がリスクを理解し、引受条件を検討するために利用できるようにすることです。



AIリスクを、より確かな根拠で引き受ける

AIに関するリスクを保険で扱う取り組みは、すでに存在します。例えばMunich Reは、aiSure™を通じてAIに関する保険ソリューションを提供し、モデルの品質や性能の安定性が保険料に関係することを説明しています。AIの技術的な評価と保険を結び付けることは、すでに実際の事業として行われています。一方、日本でも、引受判断を支えるリスク評価の高度化が課題となっています。金融庁・経済産業省が公表した2026年4月の検討会報告書は、アンダーライティングの高度化を求めるとともに、AI・IoT等の新種リスクでは過去の損害データが十分に蓄積されておらず、評価や引受判断が難しいと整理しています。この課題に対し、私たちは、過去の損害データや既存のリスク調査を置き換えるのではなく、AIが使われる現場の対策や運用を、確かめられる根拠として補うことを提案します。


「対策を導入した」と「対策が機能している」は違う

例えば、AIが配送計画を提案する物流業務を考えます。「安全規程があります」「監視システムを導入しました」という説明に加えて、必要な情報が不足したときには処理が保留されたか、所定の承認を経て実行されたか、確認した対策が現在のシステムにも適用されているかを、根拠に基づいて確かめられたらどうでしょうか。保険会社は、対策の有無だけでなく、その対策について何が確認され、何がまだ確認されていないかを踏まえて検討できます。本稿でいうAIアシュアランスとは、AIを安全かつ適切に使うための対策について、その働きや限界を確かめ、判断を支える根拠にする取り組みです。NISTのAI Risk Management Frameworkも、実際の利用環境に近い条件での評価、運用中の挙動の監視、評価結果を他の条件へ一般化する際の限界の記録を扱っています。導入時の確認だけでなく、利用される状況に即して確かめ続ける考え方です。私たちが保険へ接続したいのは、このような確認の結果です。一部を確認できたことを、AI全体の安全性が保証されたかのようには扱わない。 この区別を保ったまま、引受判断に役立つ情報として届けることを目指します。


保険会社にとっての価値は、「割引」だけではない

この構想で保険会社と検討したいのは、保険料の優遇に限りません。まず、何が分かれば引受を検討できるのか、現在どの情報が不足しているのかを整理することです。根拠不足によって判断が止まっている案件について、追加で確認すべき事項を明らかにできないかと考えています。次に、契約期間中の運用を把握するための情報として利用することです。当初の評価時からシステムや利用方法が変わった場合に、どの確認結果を引き続き使えるのかを検討する材料にします。将来的には、事故時の事実確認にも役立つ情報を提供することを視野に入れています。ただし、記録の有無だけで事故原因や法的責任、保険金の支払可否を決める構想ではありません。私たちの役割は、保険会社の引受判断や専門的な評価を置き換えることではなく、その判断に使う根拠の質を支えることです。


リスク改善が、保険上の評価につながる循環へ

企業が対策に投資し、その対策の実効性を確かめられる。保険会社が、その情報と損害リスクとの関係を評価する。評価の結果が、引受の可能性や保険条件に適切に反映される。この循環が成立すれば、AIの安全対策を「負担」だけでなく、事業を進めるための価値として位置付けやすくなると考えています。ただし、検証できる情報が増えたことと、事故の発生頻度や損害額が減ったことは同じではありません。共同検討では、確認できた対策と実際の損害リスクとの関係を検証し、保険数理や引受実務と接続する必要があります。その結果として保険料や自己負担額、補償限度額等の条件改善につながる可能性はありますが、現段階で特定の割引率を約束するものではありません。評価の単位も、企業全体を一括して「安全」と認定するのではなく、対象業務やシステム、確認できた範囲に応じて検討します。


保険会社との共同検討に向けて

GhostDrift数理研究所は、本構想に関連する検証技術について、日本で特許出願を行いました。出願番号は特願2026-210256です。次に進めたいのは、国内外の保険会社、再保険会社、保険仲立人等との、具体的な業務を対象とした共同検討です。例えば、物流等の一つの業務について、引受上重要な確認事項を定め、運用から得られる根拠が判断にどう役立つかを確かめる。その上で、既存の引受実務への組込みや、新たな商品設計への活用を検討します。本稿は、保険商品の販売開始を告知するものではありません。AIアシュアランスと保険を結び付けるための、共同検討への提案です。 技術の詳細は、秘密保持を前提とした個別の協議で取り扱います。AIを使う企業が、リスクを管理しながら挑戦できる。保険会社が、その取り組みを理解して支えられる。私たちは、その接点をつくっていきたいと考えています。


一次文献・公開資料

  1. 金融庁・経済産業省「企業のリスクマネジメントの高度化に向けた検討会」報告書(2026年4月17日)特に第Ⅲ-2節。引受・リスク評価の高度化と、AI・IoT等の新種リスクにおける損害データ不足を整理。https://www.fsa.go.jp/singi/riskmanagement/houkokusyo.pdf

  2. Munich Re, “Frequently Asked Questions — aiSure™ / Insure AI”AI保険、モデル品質・性能安定性と保険料との関係、技術的リスク評価に関する公式説明。https://www.munichre.com/en/solutions/for-industry-clients/insure-ai/faq.html

  3. NIST, “Artificial Intelligence Risk Management Framework (AI RMF 1.0)”(2023年1月)特にMEASURE 2.3~2.5。利用環境を踏まえた評価、運用中の監視及び評価の適用限界を扱う。https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/ai/nist.ai.100-1.pdf

  4. IAIS, “Application Paper on the supervision of artificial intelligence”(2025年7月2日・最終版)保険会社自身によるAI利用の管理、説明責任及び記録管理を扱う補足資料。被保険企業で発生するAIリスクの引受けは対象外であり、本構想の直接の制度的根拠として引用するものではない。https://www.iais.org/uploads/2025/07/Application-Paper-on-the-supervision-of-artificial-intelligence.pdf

 
 
 

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