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製造業AI物流カンファレンス2026 in 広島|セッションF詳細レポート

執筆者の写真: kanna qed
kanna qed
9 時間前
読了時間: 9分

AIが製造業の競争ルールを変える-世界のAI動向、広島の実証、民間の社会実装から考える品質と信頼の新しい競争力-

AIを導入するかどうかだけでなく、その判断や品質をどのように確かめ、現実の仕事に生かしていくのか。そして、その信頼を確かめられることが、企業の新しい競争力になるのではないか。製造業AI物流カンファレンス2026 in 広島のセッションFでは、広島AIプロセスを含む国際的なAIガバナンスの動向、その理念を社会実装につなげる可能性、広島県が進める実証支援と産業エコシステムの形成など、異なる立場からAI時代の品質と信頼が議論された。登壇したのは、総務省のAX・新技術戦略室 課長補佐 島﨑淳氏、広島県 商工労働局 イノベーション推進チーム 主査の村上桂太氏、当社(株式会社AIアシュアランス)代表取締役の前木秀光氏。株式会社クラウドシエン代表取締役の神原翔吾氏がモデレーターを務め、技術の可能性だけでなく、それを実際の産業の力へ変えるために何が必要かを問いかけた。


セッションF「AIが製造業の競争ルールを変える」の登壇者。左から、株式会社AIアシュアランスの前木秀光氏、広島県の村上桂太氏、総務省の島﨑淳氏、モデレーターを務めた株式会社クラウドシエンの神原翔吾氏。
セッションF「AIが製造業の競争ルールを変える」の登壇者。左から、株式会社AIアシュアランスの前木秀光氏、広島県の村上桂太氏、総務省の島﨑淳氏、モデレーターを務めた株式会社クラウドシエンの神原翔吾氏。

AIの判断を、現実の仕事に使えるか

冒頭の問題提起を行った前木氏は、製造業・物流でAIを活用する際の核心を、AIの判断で現実の仕事を動かしてよいのか、という問いに置いた。AIが優れた答えを出すことと、その答えの正しさを確かめることは、同じではない。前木氏は、AIが提示した数学の証明をLeanで検査する例を挙げ、答えを生成する技術とは別に、その正しさを確認する技術があることを説明した。そのうえで、AIの品質保証を担うAIアシュアランスの重要性を強調した。議論は数学の世界にとどまらない。前木氏が示したのは、品質管理や物流などの業務領域でも、数学を用いて品質を確かめるという方向性だ。AIモデルとは独立して品質を確認する技術を、企業活動の現場へどうつなげていくか。そこを広島発の社会実装として進めていきたいと述べた。前木氏は、主催者のオンザリンクスについてAI検索の結果を確かめる例を紹介し、企業が品質に関する検証可能な情報を公開することが、今後の情報選択や評価にどのように関わるかという見通しを示した。知名度やブランドだけでなく、品質の裏付けを確かめられることが重視されるようになるのではないか。品質を保証する取組そのものを競争力につなげるという問題提起は、セッションのテーマである「競争ルールの変化」を具体的に考える視点となった。神原氏は、AIの出した答えの正しさを検証する一つのアプローチとして関心を示し、議論を世界の法制度・政策・ガバナンスへとつないだ。



AIの判断や品質を数学的に検証する技術と、AIアシュアランスによる新たな競争力について説明する前木秀光氏(株式会社AIアシュアランス)。
AIの判断や品質を数学的に検証する技術と、AIアシュアランスによる新たな競争力について説明する前木秀光氏(株式会社AIアシュアランス)。

世界のAIルールと、日本が進める国際協調

続いて島﨑氏は、EU、米国、日本のAI政策を比較し、それぞれのアプローチを説明した。EUについては、人権保護などの観点から法律による規制を行う一方、AIの開発・利用にも力を入れていると紹介。米国については、イノベーションの促進やAIインフラの構築を重視しながら、フロンティアAIの安全性や自主的なリスク管理にも関心を向けていると説明した。規制の強弱だけでは捉えきれない、各国の政策の広がりが示された。日本について島﨑氏が強調したのは、自主的な取組を軸とするソフトローのアプローチと、国際的なAIガバナンスの形成への関与だ。規制の方法が異なる国々の間にも、人権、民主主義、法の支配といった共通の理念がある。それらを手掛かりに、相互運用性のあるAIガバナンスを確保していくという日本の考え方を紹介した。その代表的な取組として説明されたのが、広島AIプロセスである。島﨑氏は、政府だけでなく企業、学術界、市民社会などが関わる枠組みとして、その国際指針と国際行動規範を紹介。AIのライフサイクルを通じたリスク評価・低減や、責任ある情報開示、方針の開示などを重要な項目として挙げた。また、フレンズグループとパートナーズコミュニティを通じた議論や情報共有についても説明し、広島AIアシュアランス協議会のパートナーズコミュニティへの参加に言及した。国内の実践につながるものとしては、AI事業者ガイドラインを紹介した。対象はAIの開発者だけでなく、提供者、利用者にも及び、国や地方公共団体も含まれると説明。製造業・物流をはじめ、AIを業務で利用する立場にある参加者にも、ガイドラインの参照を促した。AIガバナンスは、AIを開発する企業だけの課題ではない。業務で使う側も、自らの立場に応じた取組を考える必要があるという論点が、世界の動向と国内の実務をつないだ。


世界のAIガバナンスの動向と、広島AIプロセスを通じた日本の国際協調について説明する島﨑淳氏(総務省)。
世界のAIガバナンスの動向と、広島AIプロセスを通じた日本の国際協調について説明する島﨑淳氏(総務省)。

広島の実証支援を、継続するつながりへ

村上氏は、県内産業の競争力強化という観点から、ひろしまサンドボックスと、その中の取組であるひろしまAIサンドボックスを紹介した。背景にあるのは、AIなどのデジタル技術をビジネスに取り入れなければ、県内企業の競争力が弱まってしまうのではないかという危機感だ。一方、地方の企業が、最先端の技術を事業変革に結びつける人材や知見を十分に持つとは限らない。そこで、県内企業が抱える課題と、それを解決する技術やアイデアを持つ県内外の企業をつなぐ。村上氏は、具体的な支援をマッチングと実証支援の二つに整理した。課題を持つ企業と技術を持つ企業を引き合わせ、協力して開発や効果検証に取り組む。その費用の一部を補助金で支えることで、業務効率化や新しい付加価値、サービスの創出につなげていくという仕組みだ。実証事例として紹介されたのは、配送計画と、生産計画・注文書処理の改善である。オタフクホールディングス株式会社と株式会社JIJの配送計画に関する事例では、実証段階で作業時間がおよそ半分に減り、経験の浅い社員でも計画を作れる可能性が見いだされたと村上氏は紹介した。鳴滝工業株式会社と株式会社スカイディスクの事例では、生産計画策定におけるベテラン社員の思考プロセスをAIで再現する取組に加え、FAXやPDFなど異なる形式で届く注文書を読み取り、整理・集計する取組を紹介した。現場に蓄積されたノウハウや、日々の煩雑な作業をどう扱うかという、製造業・物流に身近な課題が示された。一方で村上氏は、実証支援だけでは届かない領域も明確にした。県の事業が後押しできるのは、技術を持つ人や企業を呼び込み、最初の挑戦を支えるところまで。その後も新しいアイデアや事業が生まれる地域の好循環をつくるには、実証で生まれたつながりが継続し、広がっていく必要がある。その文脈で触れたのが、広島AIアシュアランス協議会の取組だ。AIの信頼性や安全性をテーマに、物流企業と、それに密接に関わる製造業のつながりをつくるという構想について、村上氏は県の事業と補完し得る取組だと評価した。技術を試す機会をつくることと、その後も使い手や協力者がつながり続けること。県の実証支援と地域のコミュニティ形成をどう結びつけるかが、社会実装に向けた具体的な論点となった。


「ひろしまAIサンドボックス」をはじめとする実証支援と、地域の産業競争力強化に向けた取組を紹介する村上桂太氏(広島県)。
「ひろしまAIサンドボックス」をはじめとする実証支援と、地域の産業競争力強化に向けた取組を紹介する村上桂太氏(広島県)。

実証を実装へ進めるために、何が必要か

各登壇者の説明を受け、神原氏は、実証で終わらせず社会実装へ進むために何が必要かを問いかけた。前木氏は、日本には、広島AIプロセスに代表される国際的なAIガバナンスの取組と、民間企業が培ってきた高品質な製品・サービスという二つの強みがあると指摘した。これらをAI時代の新たな競争力につなげるためには、品質や判断の根拠を検証可能な形で示すことが重要だと述べた。そのうえで、既存の強みをAIアシュアランスによって結び付け、AIによる判断を責任を持って業務に採用・実行できる仕組みとして社会実装することが重要だと説明。広島AIプロセスという資産を生かし、日本からこうした取組をいち早く進めていくべきだとの考えを示した。また、社会実装の実現が魅力的な企業の集積につながり、広島の産業の底力にもなり得るという期待を示した。島﨑氏が挙げたのは、人材開発である。AIを開発する人材だけでなく、AIガバナンスを担う人材も必要だと指摘した。ガバナンスには、法律だけにとどまらない幅広い知識が求められる。一部の大手企業や海外に人材が集中する状況を踏まえ、国内の各地域で人材を確保し、育てていくことが課題だと述べた。村上氏は、実証はまだ試す段階であり、実装へ進むには、より多くの人に使ってもらう必要があると説明した。一対一の関係で成立した実証を、そのまま閉じた取組にしない。試す人、使う人のつながりが広がることが、実証から実装へのステップになるという見方を示した。実行に移すこと、それを支える人材を育てること、使い手のつながりを広げること。三者の応答は、技術の有効性を示すだけでは社会実装は完結しないという課題を、それぞれ異なる立場から照らした。


広島AIプロセスの社会実装と、広島の産業エコシステムの形成へ

本セッションでは、総務省から広島AIプロセスを含む国際的なAIガバナンスの動向が紹介され、民間からはAIの判断や品質を検証する技術と、その社会実装に向けた問題提起がなされた。広島AIプロセスの理念を、製造業・物流の現場でどのように具体化していくか。 2023年のG7広島サミットを契機に始まった国際的な取組を、そのゆかりの地である広島から実践へとつなげることも、本セッションの重要なテーマとなった。一方、広島県からは、県内外の企業や技術を結ぶ実証支援と、その先にあるイノベーションエコシステムの形成に向けた取組が紹介された。村上氏は、広島AIアシュアランス協議会が目指す企業間のつながりづくりについても、県の事業と補完し合える取組との見方を示した。前木氏は、国際的なAIガバナンスの潮流と、日本が培ってきた品質への取組を生かすことで、世界最先端を目指す技術の社会実装が可能になるとの展望を語った。こうした取組が広島の製造業・物流の現場から広がり、魅力ある企業が集まることで、地域の産業競争力の強化にもつながり得るという。広島AIプロセスの社会実装と、広島の産業エコシステムの形成。 それぞれの立場と目的を尊重しながら、国際的なAIガバナンス、民間の技術、地域の実証をどのように新たな価値へとつなげていくか。本セッションは、広島から生まれる新たな産業の可能性を考える機会となった。


 
 
 

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